シュガーレスでお願いします!
「比呂、ゴメン。俺、比呂に酷いことを言った」
「なんのこと?」
「たまたま適齢期にプロポーズしてきたから結婚したんだろって言っただろ?」
売り言葉に買い言葉でそんなことを言われたような気もするな。
私はすっかり忘れていたのに、慶太は改めてそのセリフを詫びた。
「俺、勝手に比呂のことを全部分かったつもりで、本当の比呂の気持ちを知ろうとしなかった。まさか、一度も食べたことのないケーキの名前を全部暗記しているなんて思ってもなかったよ」
「わざわざ言うことでもないし……」
私が好きでやったことで、慶太に何かを求めていたわけでもない。
慶太のケーキがお披露目される度に、お母さんやお姉ちゃんに頼んで代わりに買ってもらっていたわけだが、今までひた隠しにしてきたのは慶太に好かれたいがために自分でも必死過ぎると思っていたからだ。
「比呂は最初からそうだな。どこからともなくやって来てサラッと俺のやさぐれた気持ちを掬い上げてくれる」
「最初から?」
「比呂が店に来たあの頃、俺はひどいスランプでさ。テレビに出始めてから大したケーキも作れない顔だけのパティシエって同業者からも叩かれていて……。その上、大輔に厨房から追い出されてすっかり自信喪失していた。そんな俺を救ってくれたのは比呂だった……」
慶太は私の手を握りさらに続けた。