シュガーレスでお願いします!

壁に手をついてしばし呼吸を整えていると、廊下の角から人影が現れ私の肩をポンっと叩いた。

「五十嵐先生ってば厳しいね」

奥寺法律事務所に二人いる事務員の内のひとり、遠藤小町さんである。

「あんな言い方しなくてもいいのに……。大丈夫、比呂先生?」

右腕にファイルを抱えながらにこりと笑う彼女は私と同じ29歳の女性で、一緒に昼ご飯を食べる仲だ。

ふわふわした柔らかそうな栗色の髪をハーフアップにし、シンプルなカットソーに膝丈の花柄のフレアスカートを着た彼女が、甘い香水の香りを漂わせながら事務所の中を歩くと、パッと花が咲いたかのようにその場が華やかになる。

いつも控えめで、笑顔を絶やすことなく、献身的に面倒な事務作業を引き受けてくる遠藤さんは、パラリーガルとは違った意味で奥寺事務所を支える縁の下の力持ちである。

難しい案件を抱えている時には殺伐となりがちな事務所の中で、随所に女性的な気遣い見せてくれる彼女に助けられることも数多い。

遠藤さんの持つ柔らかな雰囲気は、不思議と人を素直にさせる。

……それは、私とて例外ではない。

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