シュガーレスでお願いします!
「私がいけないんだ……」
ともすれば五十嵐先生に非難が集中しそうになり、遠藤さんの前で慌てて否定する。
五十嵐先生はいつだって厳しくも、的確な指導をしてくれた。
司法修習生、新人時代にも五十嵐先生にお世話になったことは片手では足りないほどだ。
(情けない……)
そんな五十嵐先生の期待を裏切ってしまっていることが、悔しく、情けなくて、爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
……慶太と結婚した頃から、私はどこかおかしい。
徹夜で完読するほど夢中だった丹羽熊五郎先生の時代小説は、読みかけのまま本棚の中に放置されているし。
以前ならその日のうちに復習してファイリングする勉強会の資料は、まだ一切手がつけられずデスクの引き出しの中で出番を待っている。
どれもこれも、ここ数か月の話である。
香子先生のような弁護士になるのが夢だったはずなのに今の私は慶太との生活に溺れ、すっかり腑抜けてしまっている。
これが俗に言う色ボケならば、恋愛にうつつを抜かすのも大概にしないと、このままではいつか取り返しのないミスをしでかしてしまうかもしれない。
学生時代、勉学に没頭するあまり、まともな恋愛経験がないまま結婚したことがここにきて仇となるとは。