シュガーレスでお願いします!
「比呂先生!!」
「どうした、君島さん」
後ろ手に何か隠しながら、君島さんが神妙な顔でデスクまでやってくる。
大学を卒業したてで、社会人としても、パラリーガルとしても未熟な彼女は度々厄介な失敗をしでかす。
毎日、悪戦苦闘している姿に自分の司法修習生時代を思い出して、身体がむずがゆくなることもしばしばだ。
「あの……比呂先生にどうしてもお願いがありまして……」
深刻そうな顔で言うものから、なにか、重大なミスでも犯したのだろうかと心配になる。
また、パソコンにコーヒーでも零したのだろうか。
それとも、誤って領収書をシュレッダーにかけてしまったのだろうか。
「有馬慶太のサインがどうしても欲しいんです!!比呂先生から旦那さんにお願いして頂いてもよろしいでしょうか!?」
君島さんはそう言うと、腰を90度に折り曲げ、隠し持っていた真新しい色紙を差し出し、深々と頭を下げたのだった。
なんだそんなことかと、ほっと胸を撫で下す。
昨日からやたら君島さんから視線を感じると思っていたら、言い出す機会を窺っていたのか。
サインが欲しいだなんて、よっぽどファンなんだな。
「そんなに好きなら、一緒に店まで行く?」
多分、私を経由するより本人に直接お願いした方がきっと喜ぶ。
自分のケーキに絶対的な自信を持っている慶太は自分のファンと交流するのもまた大好きなのだ。