シュガーレスでお願いします!
店の中に入ると冷蔵のショーケースの中に入った色とりどりのケーキがまず目に留まる。
入り口から少しだけ歩みを進めると、壁際の木製の棚にたくさんの種類の焼き菓子と手作りのコンフィチュールが綺麗に陳列されている。
ショーケースの奥にある厨房はガラス張りになっており、パティシエが丹精込めてケーキを作っているのを間近で見ることができるのが売りだ。
……そこに、慶太の姿が見えた。
白のコックコートとお店のロゴが刺繍されたブラックのエプロンを身に着け、ホワイトチョコレートで出来たプレートをケーキに指している表情は真剣そのものだった。
家にいる時のだらしない表情とは大違いである。
普段は温厚な慶太もケーキに関しては一切の妥協を許さない。
ケーキに向き合っている時の慶太は抜群にかっこいいと思う。
……本人には言わないけど。
本人に言ったが最後、どんな目に遭うかわからない。
節度を持つように言い渡してから慶太は明らかに意固地になり、今まで同じ生活を続けようと日夜私に迫ってくる。
その度にノーを突きつけているのだが懲りる様子は一切なく、ますます残念な男と化している。
(おーい、慶太~!!)
厨房に向かって大きく手を振ってみたが、ケーキに集中している慶太がこちらに気が付く様子はない。