シュガーレスでお願いします!
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
慶太の代わりに従業員の女性が私と君島さんの前に立ちふさがる。
「本日は、こちらのカボチャを使ったケーキがお勧めですよ」
制服である白シャツにブラックのエプロンを着用した彼女は、ニコニコと微笑みながらハロウィンまでの期間限定のケーキを紹介してくれる。
惜しげもなくマスカラが塗られた睫毛、くっきりとした二重、ブラウンのカラーコンタクト。
まだあどけなさの残る顔立ちは、君島さんと同じか、それよりも年下に見えた。
慶太のお店の従業員はある程度把握しているつもりだったが、新人さんだろうか。
こんなに若い人を雇ったなんて聞いてなかったけれど。
「あ、ごめんなさい。チーフパティシエの有馬慶太を呼んでもらえますか?」
すすめてもらって何も買わないのは申し訳ないが、今日はケーキではなく、ケーキを作る職人の方に用件がある。
慶太を呼ぶようにお願いすると、ニコニコと愛想の良かった彼女の眼の色が一瞬にして変わった。