シュガーレスでお願いします!
「あの……」
「有馬さんなら今日は雑誌の取材で留守にしてますよ。そんなことも知らないんですか?妻のくせに」
妻だからといって、逐一慶太の行動を把握しているわけでもない。
そして、今日はケーキを買いに来ただけで、慶太に会いに来たわけではない。
そう、彼女に伝えようものなら、火に油を注ぐような結果になることは明白で、私はケーキを前にして立ち尽くしてしまう。
「やめろよ、清水」
ケーキを買うのを諦めかけたその時、厨房と店内を隔てる扉からコックコート姿の男性が出てきて清水さんを諫めてくれた。
「大輔さん……」
彼は慶太の友人であり、soleilの共同経営者でもある古村大輔さんだった。
清水さんは大輔さんがショーケースの前に立つと、フンと鼻を鳴らしながらその場を下がり、こちらをひと睨みするとおもむろに壁にある棚の焼き菓子の陳列をし始めたのだった。