ライアーピース2
「それでは、宮本さん。また来ますね」
おっさんがそう言って俺を扉のほうへ押し出す。
その力に身を委ねて外に出た。
おっさんが扉を閉めると、廊下に二人きりになった。
「事務室へ行こうか」
呆けている俺の手を引いて、
おっさんは事務室と書かれた部屋へ向かった。
扉を開けると、中はごく普通の部屋で、
机がいくつか置かれていた。
ソファなんかもある。
奥の椅子に座るように促されてそのまま座ると、
おっさんはさらにその先の部屋へ消えた。
しばらくしてお盆に湯呑を乗せて戻って来た。
「どうぞ」と前に差し出される。
冷たいお茶かと思って飲んでみたら熱かった。
びっくりして反射的に声を上げそうになるも、必死に堪える。
おっさんは俺の向かい側に座ると、
その熱いお茶に口をつけた。
まだそれほど暑くもないのに、
扇風機が回っている。
季節外れの風鈴がチリリンと鳴っていた。
「宮本さんはね、下半身不随なんだ。
俺がこの施設で働くようになった
初めの頃からこの施設にいるんだ。
俺の最初の利用者さんだ。
耳も遠くなってきてね。
だから宮本さんと話すときは
大きな声で話してあげないとな」
「なんで、そんな話すんだよ」
「だって君、興味があるんじゃないの?」
「ね、ねぇよ」
「宮本さんに核心をつかれて、戸惑っただろう」
あからさまに反応してしまう自分が憎い。
お茶に口をつけたタイミングで
おっさんが聞いてくるもんだから、
思わず吹き出してしまった。
情けな……。
「別に俺は何にも怯えてなんかいない。
あの爺さん、勝手なこと言いやがって」
「宮本さんは君の人生の先輩だぞ?
もちろん俺の先輩でもある。
この世を長く渡り歩いた者の言葉は
大事にするもんだ」
何が先輩だよ。あんな爺さん、早くくたばればいいのに。
余計なことを言うから胸ん中がぐちゃぐちゃだ。
くそっ。さっきからどうも落ち着かねぇ。