ライアーピース2



拳を握りしめておっさんから目を逸らすと、
おっさんは立ち上がって何やらガサガサとあさりだした。


そうして俺のところへ戻ってくると、
俺の目の前に書類を差し出した。


「これ、ここの施設についていろいろと書いてある。
 帰って読んでみるといい。
 月曜日から始めようか。
 週休二日、毎回夕方四時間。どうだ?」


「誰が来るかよ」


「待ってるよ。一緒に、勉強していこう。な?」


俺の手に、書類を押し込めるとおっさんは笑った。
その笑顔に吐き気が抑えられない。


渋々書類を受け取って舌打ちをするも、
気にすることなくお茶を口に含んだ。


なんなんだよ。
俺がボランティア?


くっだらねぇ。
こんなところで爺さん婆さんに囲まれていろって……。
なんだよそれ。


しばらくお茶を飲んでいたおっさんは
飲み終えて湯呑を置くと、
立ち上がって俺の肩に手を置いた。


「それじゃあ、今日はもう帰りなさい」


「言われなくてもそうするよ。こんなとこ、
 長いとこいれるかっての」


「はは。お前、威勢がいいな」


「なんだそれ。褒めてんのか?」


「そうだよ」


調子が狂う。
むかつくはずなのに、不思議と
怒りはわいてこない。なんでだ?


 
外に出ると、おっさんは「送っていこうか」と言った。


今日は徒歩で来たから、送ってもらうのも悪くない。
そう思って俺にしては珍しく素直に頷くと、
おっさんは俺の隣を歩き出した。


「おい、車は?こっから歩くのか?」


「ん?送っていくって、徒歩でだけど」


「は、はぁ?んだよそれ!」


「ん?ダメか?」


 
てっきり俺は車があるのかと思ったのに……。
歩いて来られても迷惑だ!


こんなおっさんと歩いているところ、
誰かに見られたらどうすんだよ。



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