ライアーピース2
「昔事故に遭ってね、それから
車は乗らないようにしているんだ」
「おっさん、運転下手だったのか?」
「なんだろうね。忘れちゃうんだよ。
車の運転の仕方」
おっさんは瞳を伏せてそう呟いた。
何言ってんだこのおっさん。
運転の仕方なんか、普通忘れるか?
よっぽどアホなんだな……。
憐みの目でおっさんを見ると、おっさんは
少し照れくさそうに鼻をかいた。
なんか頼りねぇな、運転出来ねぇとか。
男は車運転してなんぼだろうが。
それにしても、徒歩で送るなんて
彼女を送る彼氏じゃねぇんだから、
男の俺にはあんまり意味ねぇ気がする。
それでもおっさんは俺について歩いてきた。
俺も黙って来た道を戻る。
途中、あのカフェを通りがかったけれど、
近くに父さんの車はなくなっていた。
もう帰ったよな。そりゃあ帰るよな。
今何時だろう。そう思ってケータイの電源を入れると、
一気にバイブ音が鳴った。
全て父さんと母さんからだった。
相変わらず、めんどくせぇ親だな。
俺なんか放っておけよ。
どうせ自分らのことしか考えてねぇんだから。
だから離婚なんかしたんだろうから。
そうじゃなかったら、今頃家には父さんもいたんだろうと思うと、
どうしても母さんが許せなかった。
父さんを裏切ったって?
何でそんなことすんだよ。
父さんも、女の母さんにまんまと騙されてんじゃねぇよ。
かっこわりぃ。
「楓って言ったな。苗字は?」
「……二宮」
「二宮……?」
二宮って苗字になんか問題でもあんのかってくらい、
おっさんはその苗字に反応した。
考え込むように眉間にしわを寄せている。
それでもすぐに元の顔に戻って俺に微笑んだ。