ライアーピース2



俺には、父親がいない。


母さんは俺が赤ん坊の頃に離婚したらしく、
そこから俺には父親がいない。
それを理解したのは、小学三年生の頃だった。


それまでは、父さんとは年に一回だけ会っていて、
それは何ら不思議ではなかった。


父さんは仕事が忙しいから、
年に一度しか会えないんだと思っていた。


でも、違った。


母さんとはとっくに離婚していて、
赤の他人になっていると知った。


それがどうやら、母さんが父さんを裏切ったという。
そんな噂が、近所で広まっていた。


楓くんが可哀そう、なんて声が飛び交い、
みんなが俺を憐みの目で見ていたと知った時、
怒りがふつふつと湧いてきた。


それからだ。俺がこんな風になったのは。


「家を出るなんてダメよ。あなたはまだ子供なんだから」


「ガキ扱いすんなよな。俺は一人で生きていけんだよ」


「……お父さんに聞いてみなさい。絶対に反対されるから」


何がお父さんだよ。離婚してるくせに。
もう他人なんだろ。俺を騙しやがって。


「明日、お父さんと会う日でしょう。十時からだからね」


「行かねぇ」


「ダメ!行きなさい。年に一度しかないんだからね?」


そうこうしているうちに家に着いた。
おんぼろのアパートの二階の角部屋。


なんでこんなとこに住んでんだ?
それは離婚したからだろ。


母さん一人じゃそんなに金も稼げないから、
一軒家なんて建てられない。
だからこんなボロアパートなんかに……。


そういうところもすっげぇ嫌だ。


ダチにここが俺の家だなんて知られたくねぇ。
ましてや母さんと二人暮らしなんてもっと知られたくねぇ。
だから嫌なんだよ。父さんがいないっていうのは。


「楓。母さん仕事に戻るから、戸締りしっかりするのよ」


「分かってるよ。うっせぇなぁ。さっさと行けよ」


眉を下げて静かに微笑む母さんは、
手をひらひらさせて車を走らせていった。


ほんと、うぜぇ。
ガキ扱いしやがって。
そんなに信用ないかよ、俺は。


家の中に入らず、チャリを走らせた。


どこに行こうとかそんなことは考えていない。


さて、どこに行くか。


智也は今日塾があるって言っていたし、
他の奴らも塾だしな。


どっかで時間潰すか。


そう思って無心で漕いだ。





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