ライアーピース2
Piece2
*
土曜日。
小洒落たカフェに行くと、
父さんがこっちに向かって手を振っていた。
軽く舌打ちをしてそっちまで歩く。
父さんの座るテーブルの上には珈琲があった。
「よぉ。楓、元気か?」
「……見りゃ分かんだろ」
ドカッと向かいの席に座って長くもない足を組む。
店員がやってきて注文を聞くから、「珈琲」と短く言った。
「楓は大人だなぁ。父さん、お前くらいの歳の頃は
珈琲なんて飲めなかったぞ」
「俺、大人だよなぁ?」
「ああ、そうだな」
父さんがニカッと笑う。
笑うとえくぼが出来て、昔の俺みたいだと思う。
昔は俺もよく笑ったな。
バカみたいに、何にも知らないで。
「家を出ようと思ってる」
俺が言うと、父さんの顔色が変わった。
笑顔が途端に剥がれ落ちていく。
ついに真剣な顔つきになると、
指を交差させ、その手に顎を乗せた。
「それはダメだ」
「なんでだよ。さっき大人だっつったろ」
「大人らしいとう意味だ。お前はまだまだ子どもだよ」
「なんだよ、どこがガキなんだよ」
「そういうところだ」
「なんだよ、そういうとこって!」
研修中と書かれた名札をつけた店員が
俺の珈琲を持ってきた時、
俺はバンっとテーブルを叩きつけて立ち上がった。
店員がびっくりして手を引っ込め、
そそくさといなくなる。
周りの客も訝しげに俺を見つめていた。