君への愛は嘘で紡ぐ
仕事の速さに圧倒され、首を横に振ることでしか答えられなかった。


それを見た白川さんは、私の両肩に手を置いた。


「返事はしっかりする。ゴム、持ってる?」
「あ、ありません」


笑顔に戻った白川さんは、私の肩を叩いて離れた。


働ける自信がなくなってきたけど、今経験しておかなければ、この先きっと恥をかいたことだろう。


「これ、私のゴム。使って」
「ありがとうございます」


受け取ったのはいいが、巻かれた髪をまとめるのは至難の業だった。
見兼ねた白川さんが後ろで一つに束ねてくれた。


「すみません……」
「いいよ。じゃあ次、仕事の説明するね」


白川さんは服の棚の隣にある箱から、紙の束と手のひらサイズの黒いバインダーを取り出した。
紙はバインダーに挟む。


「円香ちゃんの仕事は、注文を聞いて、それを調理場で伝える。そして、料理を運ぶ。それだけだよ」


バインダーを渡されながら聞くが、それが難しいのではないかと思う。


しかし、その不安はすぐに消えた。


紙には全メニューが書かれていて、言われたものにチェックをすればいいだけだった。


問題は、料理を運ぶほうか。
こぼしてしまいそうで、怖い。
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