君への愛は嘘で紡ぐ

玲生side

お嬢様の代わりに注文を受け、それを店長に伝える。


動けなかったからか、お嬢様は落ち込んでいるように見える。


「すぐに動ける奴はいねーから、そんな思い詰めた顔すんなよ」


お嬢様は泣きそうな顔で見上げてくる。


箱入り娘がいきなりバイトすれば、まあこうなるだろうな。


「私……呼ばれて、どう返事をすればいいのかわかりませんでした……」


たった一度でここまで反省するのか。
真面目というかなんというか。


「里帆さんはなんて?」
「注文を聞いて、それを伝える。そして、料理を運ぶ。と……接客は、笠木さんを見て真似しなさいと言われました……」


お嬢様が動けなくなるのも無理ない。
それだけで、初心者が行動できるかよ。


「お客様が入ってきたら、いらっしゃいませ。席の案内は俺がするから、しなくていい。呼ばれたら、今行きます。お客様が帰るときは、ありがとうございました。挨拶はこんなもんだ」


普通に考えて、いろいろ店に行っていればわかることだろうが、お嬢様が行ってるわけない。
一から教える以外ない。


俺の話を真剣に聞いてくれるのはいいが、表情が硬い。


俺はお嬢様の頬を両手で挟む。


「あとは笑顔。接客中は笑え」
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