君への愛は嘘で紡ぐ
だから、お嬢様はまたあの閉じこもった世界に連れ戻されたのか?


「玲生くん……」
「先生!」


汐里さんの声をかき消すほど大きな音でドアが開き、汐里さんを呼んだ。


「笠木さんがどちらにいらっしゃるか、ご存知ですか!?」


俺を笠木さんと呼ぶのは、一人しかいない。


なにより、この声。
わからないわけがない。


俺は最後の力を振り絞り、立ち上がる。


「……保健室で大声出すなよ、お嬢様」


カーテンをしっかりと掴んでいなければ、立っていられなかった。


お嬢様は、見たことのない制服を着ている。
いかにもお嬢様というような、金持ちが着るような制服。


俺との身分差がはっきりと目に見える。


「笠木さん……!」


お嬢様は俺に抱きついてきた。
全身にあまり力が入っていないせいか、後ろに倒れそうになる。


予想外の行動にときめいている場合ではない。
体調が悪いことを勘づかれるのではないかと、気が気じゃない。


「……他校生が入ってきたらいけないと思うんだけど?」
「これが最後のルール違反です」


すぐ近くで笑うお嬢様を見て、抱き返したくなる。


だけど、俺は今から彼女を突き放さなければならない。
そんな、期待させるようなことはしない。
< 125 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop