君への愛は嘘で紡ぐ
ゆっくりとお嬢様を引き離す。


「笠木さん……?」


不安そうな声に、決心が揺らぎかける。


「お嬢様さ……なにか勘違いしてないか?」


状況が飲み込めていないお嬢様は、目を泳がす。


「本気で俺がお嬢様の相手をしてたと思うのか?」


言いたくない。
言えない。


でも、お嬢様を傷付けないと、俺は多分、一生後悔する。


お嬢様の中に、俺の存在を残すな。
忘れたいと思わせろ。


「……金持ちだから、相手しただけ。お嬢様のことなんて、どうでもよかったから」


お嬢様は静かに涙を落とす。
だけど、そのまま笑った。


「わかっていますよ。でも……笠木さんも勘違いされていませんか?」


そう言われて、お嬢様のほうを見る。
手が震えているのが気になった。


「私は、笠木さんを利用しただけです。おかげさまで、人との関わり方を知ることができました」


じゃあ、どうして抱きついてきたんだ、とは言えなかった。
気付かないふりが一番だ。


「今日はただ、お礼を言いに来たのです。短い間でしたが、お世話になりました」


お嬢様は深く頭を下げ、走って帰っていった。


「小野寺さん!」


汐里さんがお嬢様を呼ぶけど、多分お嬢様は止まらない。


それと同時に全身の力が抜け、俺は倒れるように座り込んだ。


「ちょっと玲生くん、今のどういうこと!?」


汐里さんに支えられながら、ベッドに横たわる。
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