君への愛は嘘で紡ぐ
「汐里さん……今のは、見なかったことに、して……俺と、お嬢様のために」
「でも二人、絶対に」
「汐里さん」


直接口を塞ぐことはできなくて、名前を呼んで遮る。


「俺はこんなだし……小野寺円香は、金持ちの娘……どれだけ頑張っても、結ばれないんだよ……だから、知らないふり、して……?」


汐里さんは納得しない表情で泣いている。


「玲生くんは、もっと欲張りだった」
「……うん」
「小野寺さんのこと、諦めるの?」
「……違うよ」


諦めるという表現は、この場合相応しくない。


「お嬢様のことは、死ぬまで好きだ。でも、俺はお嬢様を幸せにできない。だから、傷付けて、幸せになってくれることを、祈るしかできない」


汐里さんが一生懸命泣いてくれるからか、不思議と涙は出てこなかった。


汐里さんの涙が止まり、落ち着いてから、俺は病院に連れていかれた。


「おかえり、玲生。用事は済んだ?」


中條先生が笑顔で病室に入ってくる。


用事が、済んだ。


中條先生がそんなつもりで言ったわけじゃないってわかってるけど、なぜか、お嬢様との関係は終わった?と言われたような気がした。


終わったんだ。
もう、本当にお嬢様には会えない。


そう思うと、涙が止まらなかった。
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