君への愛は嘘で紡ぐ
私はさらに集中して耳を傾ける。


「……王子は、死ぬことの怖さを考えたことあるか?」


なぜ鈴原さんを王子と呼んでいるのか気になったが、そこに気を取られている場合ではない。


どうして笠木さんはそのようなことを聞くのだろう。


「は?」


鈴原さんも質問の意味がわからないからか、不機嫌そうに返した。
笠木さんは小さく口角を上げる。


「まあ、まだ考えないよな。でも、俺は違う。病気がわかってから、今日死ぬかもしれないって思いながら生きてきた」


笠木さんは窓の外を眺める。
後ろ頭しか見えなくて、どのような表情をしているのかわからない。


「俺は、やりたいことができずに死ぬのが怖い」


死について考えたことがなくて、笠木さんの話がどこか私には無関係のように感じてしまう。


「だから、後悔しないようにしてきた。やりたいことは全部やった。それができたのは、二十歳まで生きられるかわからないっていう制限があったからだ」


笠木さんがなにを伝えようとしているのか、全くわからない。
わからないけれど、聞かなければならない気がした。


「俺は、今を生きてるんだよ。未来を、想像できない。王子の質問に答えるなら……生きたいって、思わねーや」
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