君への愛は嘘で紡ぐ
「わかり合えないからって、相手のことをわかろうとしないのはよくないからな」


私は会釈をして病室を後にする。


逃げたわけではない。


笠木さんの言葉は理解できたし、ただ話し合うことしか考えていなかった私に、解決への道を作り出してくれたような気がした。


家を飛び出したときの私に足りなかったものは、そういった冷静な心だろう。


今現在、私とお父様はわかり合えていない。
冷戦状態とも言えるだろう。


しかし、私はどれだけお父様のことを理解している?


お父様がどうして私と笠木さんを会わせないようにしているのか。
どうして鈴原さんと婚約させたのか。


それは本当に、小野寺の名のことしか考えていないからなのか?
私のことを会社を大きくするための道具としか見ていないと、私が勝手に思い込んでいることではないのか?


「円香!」


そのとき、お父様の声がした。
お父様は額に汗を浮かべながら、遠くから走ってきた。


「無事だったか?怪我はないか?何もされてないか?」


私の両肩に手を置いたお父様は、どこか必死に見えた。


こんなお父様、見たことがない。


「旦那様!お嬢様は今日中に戻られるので家でお待ちくださいと……」
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