君への愛は嘘で紡ぐ



家に戻るまでの間、私たちは一切話さなかった。
門の前には柳が立っていて、私の姿を見た瞬間、駆け寄ってきた。


「よかった……」


柳の目の下にクマがあって、眠れなかったのがわかる。
奈子さんから連絡があったはずなのに、心配してくれていたらしい。


「……ごめん、なさい……」


柳の独り言のような言葉と安心しきった顔を見て、思わず謝ってしまった。


家の中に入ると、すぐにリビングに向かった。


久々にお父様と食卓を囲んでいるのに、全く楽しい気分にならない。


そもそも、お父様と二人きりという状況が初めてに近くて、緊張してしまう。


「円香」


お父様と話したいと思ったはずなのに、どう切り出していいのかわからずにいたら、お父様に名前を呼ばれた。


私は顔を上げてお父様を見る。


「はい」


少し声が裏返った。
怖いとはまた違う感情だ。


「今後、どうしたい」


素直に話していいのだろうか。
自分の思っていることを伝えようと覚悟を決めたが、実際その状況になると、恐怖が勝る。


「私、は……」


声が震える。
頭は真っ白になっていって、言葉が出てこない。


「……少し私の話をしよう」


お父様は柳がいれたコーヒーを喉に通した。
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