君への愛は嘘で紡ぐ
お母様は、私が五歳のときに家を出ていった。


お母様のことを好きだという男性と再婚をしたくて出ていくのだと教えられた。


そのころのお父様は仕事ばかりで、家にはほとんど帰っていなかった。


いや、仕事ばかりで家をほとんど空けるのは今も同じか。


「お母様を憎んだことはないのですか?」
「ない。もともと花織に一目惚れし、私は花織の家の財力もほしくて、結婚を申し込んだが、花織は私を好きではなかった。それで放置されていたら、誰だって嫌になるだろう」


お父様は切なそうに笑う。


「憎むなら、あのころの自分を憎む」


本当に、お母様のことが好きだったのだと伝わってくる。
それを伝えなかったから、お母様は不安になり、お父様以外の人を選んだのだろう。


私を大切に思っていることも、言われなかったらわからなかった。


お父様は、不器用な人なのかもしれない。


「円香の好きな人が悪い奴だと思ったから、酷いことを言ってしまった。円香は、後悔しないようにしなさい」


お父様はそう言い残して、出ていった。
すれ違うように、奈子さんが入ってくる。


「旦那様とお話できましたか?」


奈子さんはテーブルの上にあるコーヒーカップをさげる。


「うん……ありがとう、奈子さん」
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