君への愛は嘘で紡ぐ
キッチンに立つ奈子さんは首を傾げた。
どのことに対してお礼を言ったのか、伝わらなかったらしい。


「服貸してくれたり、お父様と話すきっかけを作ってくれたり……なにより、笠木さんとのことを応援してくれて、嬉しかったから」
「お礼を言われるようなことではありませんよ」


奈子さんはそう言うと、カップを洗い始める。


「奈子さん、もう洗い物、やらなくてもいいんだよ?」


私が指摘すると、奈子さんはなにかに気付いたように口を開いた。


「癖って恐ろしい……」


そう言いながらも、奈子さんは皿洗いを辞めない。
食器乾燥機にカップを置いて、戻ってきた。


「これから、好きな人と堂々と過ごせるのですね」


改めて他人に言われると、言葉に言い表せないほどの幸せを実感した。


恥ずかしくて俯くと、奈子さんに服を借りていたことに気付いた。


「そうだ。服、洗濯して返すね」
「そんな、そのままで大丈夫ですよ」


それでも洗濯をと思ったが、聞き入れてもらえなかった。


「じゃあ、着替えてくる」


自室に戻り、自分の服に着替える。
奈子さんの服を簡単に畳み、部屋を出た。


「では、また何かあればいつでも連絡してくださいね」
「うん、ありがとう」


そして奈子さんは帰っていった。
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