君への愛は嘘で紡ぐ
冷たい言い方に感じたが、事実だ。
お互いに告白をしたわけではないから、交際は始まってすらいない。


「では、お付き合いしましょう」


そう提案すると、笠木さんは一瞬視線を私に向けた。


「そんな軽い気持ちで付き合えるかよ」


それもそうだ。
笠木さんのことは好きで、付き合うことができるならそうするが、今は違う。


笠木さんに手術をしてもらうために、そんな提案をした。


「第一、娘の彼氏ってだけで手術費出してくれるような人なのか?」


私以上に、笠木さんのほうが冷静だったらしい。
お父様を説得できるとは思えない。


だけど、笠木さんが手術をするには、お父様に頼るしかないはずだ。


そのとき、さらに馬鹿げたことを思いついた。
鈴原さんと話したからかもしれない。


「……娘の夫なら、わかりません」
「……は?」


振り向いた笠木さんの表情が固まっている。


「それ、本気で言ってるのか?」


小声で、不機嫌そうに確認された。


自分でも、そう思う。
付き合うことがダメなら結婚、なんて普通に考えておかしい。


「頭がおかしいことを言っているのはわかってます!でも、それしか思いつかない……」


笠木さんの反応をそれ以上見ることができなくて、顔を背ける。
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