君への愛は嘘で紡ぐ
それは零れたという表現が相応しいくらい、自然に言った。


「円香ちゃんの口にあったみたいでよかった」


私は食べることに集中してしまい、あっという間に半分食べてしまった。


「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」


希実さんは残った分を取り皿に移し、私の皿をも持って、立ち上がった。


「洗い物は私がやりますよ」
「いいの。今日は円香ちゃんはお客さんなんだから。次来たときにお願いね」


次もあるのだと嬉しくなった。


そのときは他人ではなくなるということなのだろう。
顔がにやける。


希実さんが皿洗いをしている間、手持ち無沙汰で、テレビ台の隣にある小さな本棚を眺める。


背表紙には『玲生0~3歳』というようなシールが貼られている。
アルバムが並んでいるらしい。


「それ、見てもいいよ」


台所から希実さんの声が聞こえてくる。


「では、お言葉に甘えて」


一番左側のアルバムに手を伸ばす。
開くと、赤ちゃんの写真とその近くに吹き出しの付箋が付いている。


『はじめまして、玲生』


一枚一枚、希実さんのコメントがある。


『積み木のお城が壊れて泣いちゃった……』


そのときの状況が書かれていることもあって、普通に写真を見る以上に微笑ましくなる。
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