君への愛は嘘で紡ぐ
楽しかった気持ちがしぼんでいく。
この気持ちを、共有したかったのに。


「お姉さん、大丈夫?」
「……はい、大丈夫です。教えてくださり、ありがとうございました」


軽く会釈をし、その場を離れる。


賑やかな声から少しづつ離れていく。
一歩ずつ前に出す足はとても重たい。


せっかく楽しくなりそうだと思ったのに。
急用ができたとしても、声をかけてくれるくらいしてくれたらよかったのに。


心に穴が空いたような、胸が苦しいような、笠木さんに腹が立つような。


この感情を抱くのは久しぶりだ。
私は。


「寂しいです、笠木さん……」


たとえ小声でも、口にしただけで涙が零れてきた。


昔はお父様に対して“寂しい”という感情を見せた。
そのたびに忙しいと切り捨てられてきた。


そのうち、私は寂しいと言ってはいけないのだと思うようになった。


寂しいと思えば口にしてしまう。
それなら、寂しいと思わなければいい。


幼いながらにそのようなことを思っていた。


だけど、笠木さんに言えば、笠木さんなら、私の寂しさを埋めてくれるのではないかと思った。


私はもっと、笠木さんと過ごしたい。
一緒にいたい。


『お嬢様はどうありたい』


私は、笠木さんの隣に立つにふさわしい人になりたい。
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