君への愛は嘘で紡ぐ
目を覚ましたその日のうちに退院し、旅行の準備を始めた。


「……母さん、旅行に行く金、あるのか?」


準備しているとき、ふと思った。


俺の入院費、治療費はかなりするはず。
父さんがいないうちは、かなり経済状況が厳しいと思う。


「もしあれなら、俺のバイト代……」
「やめてよ、玲生。そんな心配しないで、純粋に楽しみたいの」


旅行カバンに着替えを詰め込んでいる母さんは、頬を膨らませている。


たしかに、野暮なことを聞いたかもしれない。


それでも、気になるものは気になる。


「……一泊だけし、県内だもん、そんなにかからないよ」


そんな俺に気付いたのか、母さんは小声で教えてくれた。


「……そっか」


言いたくないことを言わせてしまい、無性に謝りたくなった。
でも、絶対に謝ったらいけないように思った。


「楽しい旅行にしような」


母さんは子供のような笑顔を見せた。


翌朝、母さんの運転する車に乗り、予約した旅館に移動する。
寝坊してしまった俺は、車の中で薬を飲む。


運転中の母さんは車内に流れる曲を口ずさんでいる。


楽しそうでよかった。


母さんは、俺が病気になったと、二十歳まで生きられないと知ってから、いつも元気がなかった。
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