君への愛は嘘で紡ぐ
旅館に着くと、そこは自然の中だった。
窓からの景色は山。
緑一色だ。


「車で一時間くらいでこんな景色が見れる場所があったんだな」
「綺麗だね」


俺と並んで外を眺める母さんが微笑んだ。
その横顔を見ると、泣きそうになる。


俺はこの笑顔を、どれだけ見ていなかったんだろう。


「来てよかったね」
「……そうだな」


感情を押し殺そうとしていたせいで、機嫌が悪いと思われるような言い方をしてしまった。
母さんは心配そうに俺を見る。


「いや、本当に来てよかったよ。ただ……母さんのことを考えてなかった自分を反省してただけだから」


すると、母さんは俺の髪をぐしゃぐしゃにした。


「私は、毎日を楽しそうに過ごしてる玲生が見れて幸せだったんだから、気にしないの。でも本当は、ちょっとは話すくらいはしてほしかったかな」


母さんは寂しそうに笑う。


「玲生が何をして、何を感じたのか、共有したかった。玲生の楽しい記憶をわけてほしかった。それだけで、よかったんだよ」


母さんは俺の背中を軽く叩き、窓辺から離れた。
座椅子に座ると、お茶を淹れる。


「仕事ばっかりで家にいなかったくせに、何言ってんのって話かな」
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