君への愛は嘘で紡ぐ
母さんに提案されて、この旅館の近くに何があるのか調べてみる。


「いいところありそう?」


すぐに見つけられなくて、スマホを操作していたら、母さんが俺の隣に座って画面を覗き込んできた。


「微妙」
「じゃあ、いいところがないか、女将さんたちに聞いてみよう」


俺たちは荷物を持って部屋を出た。
話を聞くと、近くに商店街のようなものがあって、コロッケが美味しいと教えてもらった。


大きな荷物は車に積み、歩いて商店街に向かう。


「ねえ、玲生。昨日少し考えてみたんだけど……」


昨日見ていた山の中を歩いていたら、母さんが急に言った。


「恋人は作らないにしても、好きな人がいるくらいはいいんじゃないかな……?」


いろいろと話した中で、その話題の続きをされるとは思わなかった。


「……なんで?」
「好きな人がいるってだけでも、世界が変わるもん」


そう言って母さんは、学校でよく見かける女子と同じように楽しそうだ。


「……つまり、お嬢様を好きになってもいいと?」


二、三回首を縦に振られた。


「別に、そのお嬢様じゃなきゃいけないってわけじゃないけどね」


そうこうするうちに教えてもらった揚げ物屋に着き、コロッケを注文する。
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