君への愛は嘘で紡ぐ
笠木さんは無言で歩く。


「……赤」


と思ったら、聞き逃してしまいそうなくらいの小声で言った。


「赤、ですか?」


どうして赤色なのかわからず、聞き返した。


「俺がお嬢様を知ったきっかけの色だから。嫌?」


嫌ではなかったから、首を横に振る。


だけど、笠木さんと私が知り合ったのは学校で、赤色なんてなかったはずだ。


いや、違う。
笠木さんは、もっと前から私のことを知っていたのでは?


そうでなくては、初対面で私をお嬢様と呼ぶはずがない。


「笠木さん、私を知ったきっかけというのは、どういう……」


質問の途中で、笠木さんが私の唇に人差し指を当てた。
私は口を噤む。


「着いたから、その話はまた今度な」


笠木さんはお店の中に入っていく。
置いていかれないよう、急いで中に入る。


「玲生じゃん、久しぶりだね。また染め直し?」


ここは笠木さんの行きつけらしく、女性美容師さんが笠木さんに声をかけた。


「いや、今日は違う。この子の髪を染めてほしいんだ」


知らない場所で緊張して笠木さんの背中に隠れていたのに、笠木さんが横にずれてしまった。


「これはまた可愛い子を連れてきたね。綺麗な黒髪なのに、染めるの?もったいないなあ」
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