結婚してみませんか？

結婚してみませんか？

『俺と…結婚してみませんか？』

この言葉を聞いてから1週間が過ぎた。私は自分の生活リズムを崩す事なく、いつもと同じ日々を過ごしている。

本気で言ったのか、冗談だったのかは分からないし、何故あの流れで結婚しませんか？になったのかも分からない。彼はただ一言、『考えてみて』と爽やかな笑顔で私に言って、この日は解散した。

正直、私の心はモヤモヤしている。

今まで遠い存在だった『結婚』が、今私の目の前に迫っている。

私の中の急展開…

興味がないと即刻断る事も出来たが、私は断る事に躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

何故だろう…

まず、結婚が本気か冗談かを確認しないといけない。しかし、私は相沢さんの連絡先を知らない。一緒に飲んだ夜に連絡先の交換をするのを忘れていたのだ。

「仕方ない。」

次の日、私は仕事が終わると家に帰らずに、そのまま相沢さんの勤めている会社へと向かった。

会えるか分からないけど、ここで待つしか会う方法がないので、会社ビルの入り口付近で相沢さんを待つ。

「恋さん？」

「あっ、笹倉さん。」

仕事終わりの笹倉さんが会社ビルからでて来た。入り口付近にいた不審者のような私に声をかける。

「こんな所でどうしたんですか？編集長ならもう帰られましたけど。」

「いえ、今日は母に用事ではなく…別の人に用事が…。」

「別の人？」

私は戸惑ってしまい、言葉が上手く出てこない。ここで相沢さんの名前を出してよいものか…。

「えっと…フォトグラファーの相沢さんって知ってますか？」

私は笹倉さんから視線を逸らし気味に尋ねる。

「相沢さん？あぁ、もしかして相沢 智章君の事かな。」

「そうです。」

「彼ならまだ中で仕事してるけど…。」

「それではもう少し…ここで待ちます。」

「いえ、ここで待っても何時になるか分からないし、彼の所まで案内しますよ。ついてきて下さい。」

笹倉さんはついておいでと言わんばかりにスタスタと会社ビルへと戻っていく。

「あっ、ちょっと。」

ついて行くしか選択肢がないので、笹倉さんの後を追った。