結婚してみませんか？

「さぁどうぞ。」

電車を降りしばらく歩くと、相沢さんの住むマンションに着いた。ちょっと話をするだけで良かったのに、何だか大ごとになってしまった。

「紅茶しかないけど。」

そう言ってミルクティーを入れてくれた。相沢さんの部屋は必要最低限の物しか置いてなくて、シンプルな部屋だ。そして私の前に座り、いつもの爽やかスマイルを私に向ける。

「結婚の事、考えてくれた？」

「あの…結婚って本気ですか？」

「あはは、流石に冗談で結婚しようなんて言わないよ。本気本気。」

何だか軽いノリみたいな感じで話す。結婚なんて言われると、女性なら何かしら動揺したり、感情が表に出てきそうだが、私は表情を変える事なく、至って冷静だった。

「結婚するつもりはないって言ってたのに、何で出会って間もない私なんかと…？」

「それは…恋ちゃんが俺と似た結婚観を持っていたからかな。興味持っちゃった。話してて恋ちゃんっていいなと思った。」

「それだけで？」

「うん。恋ちゃんの言ってたお互いのプライベートに干渉しない、ルームシェアみたいな結婚生活って俺にとっても理想的なんだ。」

同じような結婚観…。
でもそれだけで結婚っていうのも何だかなぁ。

「順番的に結婚より恋人としての付き合いが先なのでは？」

「…まぁ、一般的にはそうだよね。」

相沢さんは何かを考え込むように静かになった。

「じゃあさ、1週間お試し生活してみない？」

「お試し生活？」

「そう。1週間一緒に生活してさ、俺と結婚できそうかどうか判断してみて。」

お試し生活…
まぁ恐らく1週間後に彼の方からやっぱり無理だと言ってくるでしょうけど。

相沢さんは笑顔で私の返事を待っている。

さて、どうしよう。私はミルクティーを飲みながら考える。面倒くさい…と言う気持ちもあるが、それ以上に私にしては珍しく、似た感性の彼との生活に興味を持った。

「…お試し生活、いいですよ。」

「そうこなくっちゃ。」

相沢さんは満面の笑みで私を見る。

こうして、結婚前提のお試し生活が始まった。