結婚してみませんか?
「また迷惑かけてしまってすみません。ありがとうございます。」

助手席に乗った詩織さんは頭を下げる。

「恋ちゃんと詩織さん、仲が良いんだね。」

「はい。恋ちゃんとは中学生の頃からの知り合いですから。」

「中学の頃から?会社で知り合った訳じゃないんだ。」

「…正確に言うと、入社式の時に恋ちゃんと再会して、また友達付き合いを始めたって感じなんですけどね。高校・大学時代は訳あって疎遠しちゃって…。」

疎遠?今まで明るかった詩織さんの表情が曇り始める。

「恋ちゃんって、今は人との関わりもあまり持たず地味にしてるけど、中学の頃はオシャレでよく笑う明るい子だったんですよ。」

明るい恋ちゃん…。ダメだ、想像出来ない。

「男子にも女子にも人気があって、私は恋ちゃんと友達になれて嬉しかったし楽しかった。でも中3の頃だったかな。恋ちゃん、イジメのターゲットにされちゃって…。それから恋ちゃんから笑顔が消えて、学校も休みがちになって…私、友達なのに怖くて何も出来ず、そのまま卒業しちゃったんです。高校は別だったし、何となく連絡もし難くて疎遠になっちゃいました。」

表情を曇らせたまま詩織さんは話を続ける。俺は運転しながら黙って話を聞く。

「まさか同じ会社で再会するなんて本当に驚きました。見た目も地味に装い、昔ほどの明るさもなかったけど、恋ちゃんは恋ちゃんのままでした。今度こそ本当の友達になりたいって思って過去を謝って今に至ります。」

「へぇ、2人にそんな過去があったんだ。」

「酔ってるせいで喋り過ぎちゃいましたね。恋ちゃんには内緒でお願いします。」

「了解。」

詩織さんを家の近くまで送り届け、また自分の家に帰る。

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