結婚してみませんか?
しばらくすると、外から車が止まる音がした。私の住んでいるのは、アパートの二階。部屋のカーテンからそっと外を見ると、一台のタクシーが止まっていた。

「…あれかな。」

外に出て、タクシーから降りた人を確認する。しかし、暗くて顔がよく分からない。少し近づいて顔を確認しようとすると、私の存在に気づいたのか、男性は振り返り声をかけてきた。

「もしかして…恋ちゃん?」

「…そう…ですけど。」

さっきの電話と同じ声。詩織を背負って私の元へ来る。

「詩織さん、何度声かけても全然起きてくれなくてさ。助かったよ。」

「…あの、申し訳ないんですけど、詩織を部屋まで運んでもらってもいいですか?」

「オッケー。」

私では爆睡中の詩織を運べないので、得体の知れない男性を部屋に入れるのは嫌だけど、お願いするしかなかった。

詩織をベッドまで運んでもらうと、彼は疲れたかのように手を上にあげ腕を伸ばし始めた。

「…ありがとうございました。」

「どういたしまして。悪いけどさ、水もらっていい?」

「あ、はい。」

冷蔵庫からミネラルウオーターを取り出し、コップに注ぐ。そして、そのコップを彼に渡した。

「どうぞ。」

「ありがとう。」

彼は立ったまま、渡されたコップの水を勢いよく飲み干す。

「…まだ水飲みます?」

「いや、もう大丈夫。ねぇ、少し座ってもいいかな?詩織さんをここまで連れてくるのに疲れちゃった。」

「はぁ。」

そう言って彼はその場に座る。まぁ小柄な詩織とはいえ、確かにここまで運ぶのは大変だし疲れるだろう。

「恋ちゃんさぁ…。」

私も彼の前に座ろうとすると、話しかけてきた。それよりも…。

「あの…何で私の名前…。」

「あー、詩織さんが飲み過ぎたから恋ちゃんに電話するって言ってたし、まぁ電話かけたまま寝ちゃったけどね。その後詩織さんの携帯が鳴り始めて『恋ちゃん』って携帯画面に出てたから、何となくそう呼んだんだけど、ダメだった?」

にっこりとしながら私の顔を見る。今、ようやく彼の顔を意識して見たけど、女性にモテそうな爽やか系の顔をしている。いわゆるイケメンだ。とはいえ、そんな彼を前にしても何のトキメキもない。私は彼の顔をじぃっと見て話を聞いた。

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