結婚してみませんか?
笹倉さんが病室を出た後、私と智章さんの間に沈黙が続く。

「恋ちゃんが倒れたの…俺のせいだよね。ごめん。」

重い沈黙を破り、智章さんが申し訳なさそうな顔をしながら話す。

「いえ、これは私の体調管理不足で智章さんは何も悪くないです。」

ここの所、全然寝れなくて寝不足が続き、食事もまともにとってなかった。きっと倒れてしまったのはそのせいだろう。

「智章さん。もしかして、私と笹倉さんの事…。」

「旅行で別行動した時、恋ちゃんを見かけたんだ。いつもと違う服装とメイクで愛おしそうな顔しながらチャペルウェディングを見つめてた。あの場所、笹倉さんと写真撮った場所だよね?笹倉さんの事思い出しながらあんな顔するんだって見てて辛かった。そして恋ちゃんを幸せに出来るのは俺じゃないと思った。」

智章さんは立ったまま下を向き、話し始めた。やっぱり私と笹倉さんの事、誤解してたんだ。

モデルを辞めてから母の勤める出版社で再会するまで笹倉さんとは連絡を取ってなかった。だから微妙な距離感が出来てしまい、お互いどう接していいか分からずよそよそしくなっているが、私は笹倉さんの事を昔から兄のように慕っていた。智章さんにはそんな私の態度が恋心に見えたんだ。

「智章さん、座って下さい。」

私は立ちっぱなしの智章さんを椅子に座るよう促す。智章さんは言われるがままにベッドの横にある椅子に座った。

「私、中学の頃少しだけモデルをしてた時期があったんです。」

「うん、詩織さんから聞いた。笹倉さんともその時知り合ったんでしょ?」

「はい。旅行で行ったあの場所はモデルの撮影で行った事がありました。写真もその時に撮ったんですけど、撮り終わった後に笹倉さんとした話を思い出してました。」

「話?」

「あの時もちょうどチャペルウェディングが行われてました。それ見て私、言ったんです。私もいつか大好きな人と結婚する日が来るのかなって。それが智章さんと実現する日が来たんだなと思いながら、チャペルウェディングを見つめてました。」

私は智章さんを見て微笑んだ。

「あの時の表情、笹倉さんじゃなくて俺の事想ってくれてたんだ。それなのに俺は勝手に勘違いしちゃって…。」

智章さんはベッドの上の私の手を握りしめてきた。

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