揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
少し離れて全体的に見たら「OK〜」とカメラの前に立った。
コ、コイツ……慣れてやがる。
勝手に流れ決めてスッと懐に入ってきていつの間にかもて遊ばれてる気が。
シャッター押すのも早い。
僅かに角度を変えて瞬時に何パターンも撮っている。
俺らを待たすことなく次々と進めて無駄が一切ないように思える。
周りからも信頼されてんだな。
緊張感漂う現場の空気を和らげたり……逆にそれを利用してたり。
今まで何パターンも撮られ時間だけが過ぎ、イライラしてた撮影とは全く違う。
明らかに……今までのカメラマンと180度違うなんて。
個人撮影時も。
いきなり目の前に来て顎を持ち上げたりする。
細かく修正されてカメラを構える。
撮り終わった後の目つき。
真っすぐ見つめられたら……
これでいいのか不安になるだろ。
「お疲れさまでした」ってフッと笑ったら何故か安心感に包まれた。
え、これで終わり!?早っ!!
他のメンバーはまだ撮ってる。
先に休むよう楽屋に通されかけたけどスタジオに留まった。
「最後まで見るよ」
そう言うとアシスタントの子が慌てて椅子を用意してくれた。
カメラの前ではなく、撮る側の後ろから見る景色はやっぱり新鮮だった。
でも………ちくしょう。
俺にはあんな触れ方しなかったぞ。
「その表情いいですね」とか俺にも言えよ。
「じゃあラストもう一枚…!」
撮り終えて「お疲れさまでしたー!」
最後の笑顔………ヤバいだろ。
あんな顔して笑うんだ。
何も言わずに席を立つ俺。
「レイちゃんヤバいよな〜」
「撮られながらあそこまでドキドキしたの初めてだわ〜」
「視線たまんねぇよな」
楽屋で他のメンバーが興奮気味に話してる。
「後で連絡先聞こうっと」とか言いやがるからテーブルを叩いて立ち上がった。
皆の視線が集中して………