揺れる被写体〜もっと強く愛して〜




新曲MVの出演依頼。
断られる覚悟で言ってみた。
最初で最後のお願い。
この曲に賭けてんだ。
お前だけを想って書いた詩。
お前だけを想って生み出したメロディー。




俺の中の集大成なんだ………






「……で?私がその女神に?」




「勿論顔は出さない、後ろ姿や見えないアングルで撮ってみせるよ」




とにかくレイに出てもらわなきゃ何も始まらないんだ。




「もう一度日本で、この曲で、俺は勝負したいんだ…!どうしてもこの世に残したい楽曲なんだよ…!」




どうか、ちゃんと熱意が伝わってほしい。
俺の人生をかけた一大プロジェクトなんだ。
クスッと笑う声がした。
見上げると柔らかな笑顔。




「そんなにすごい作品なんだ?」




「うん…!」




「……わかった、いいよ」




「本当に!?」




「ただし、本当に顔は出さないでね?」




「うん…!やったー!!あ、あともうひとつ」




「え……?」




目の前に持って来た一眼レフカメラ。
レイと同じメーカーのもの。




「使い方、教えてよ」




俺だって上手く撮りたい。
撮られる側じゃなくて、撮る側の視点も見てみたくなった。
丁寧に教えてくれるレイが、やっぱり好きだ。




指が触れるだけでドキドキしたりして。
綺麗な横顔や艷やかな唇を見るたびに欲は募るばかり。
触れたくて……触れられなくて……
完全に手に入れられないもどかしさには随分苦しめられた。




もうそんな想いを払拭すべく、この曲に全てを託した…と言っても過言ではないくらい。
一か八かの大勝負。
レイなら受け止めてくれるよな…?







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