揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
一緒に撮影していた仕事も無事に終了し、もうスタジオで会うことはなくなって……
「おはようございます、今日から宜しくお願いします」
「おはよう、南城さん…」
彼女の決意は固いらしく、ヘアメイクアーティストをあっさり辞めてカメラマンのアシスタントとしてうちにやって来た。
「本当に良いの?後悔してない?」
「してません」
思った以上に彼女の熱意は本物で、
他のアシスタントの子たちともすぐ打ち解けて仲良くやってくれている。
相変わらず男には厳しいけど。
でも、最初に言ってた通り
俺とは一線を引いてくれている。
ちゃんと講師と生徒の関係だ。
2人きりになることはないし外で会うこともない。
あの過ちの日以来……
俺の前では“女”を封印してくれてるみたいだ。
だけどそんな彼女がモテなくなったわけではなくて、他のアシスタントからヨコシマな目で見られてることもしばしば。
一緒の空間に居ると、やっぱりそういう現場に遭遇することもある。
「南城さんと付き合いたい」ってよく告白を受けてる。
キミが言ってた“モテ期”はまだ健在なんだね。
また、冷たくあしらうんだろうな。
ゆっくり踵を返し立ち去ろうとした。
「ごめん……好きな人が居るから」
「それって……もしかして上川さん?」
そう聞こえて思わず立ち止まってしまった。
「いや、違ってたらごめんだけど…もしかしたらそうなのかな?って」
もうそんなはずはない……と思う反面、
どこかでまだ期待している愚かな自分が居て、胸の奥が痛む。