揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
「これ、時間かかったろ?」
こんなタイミング、そうそうあるはずない。
しかも野良猫だし。
「まぁね。でも来るな…ってのはわかったからちょっと張り付いてみました」
「アハハ、可愛いな?猫は良いよなー、南城凄いよ…才能あるよ」
もう……教えることはねぇ。
最初から素質なんてありまくりだったし、充分に実技能力も長けてる。
何となく視線を感じて横を向く。
頬づえをつきながらクスッと笑う。
この表情に毎回ドキドキさせられてきた。
そっと手が伸びてきて髪に触れる。
ヤバい……
心臓が飛び跳ねる。
封印してきた想いが簡単に崩れてしまう。
「やっぱり好きだな……その笑いシワ」
「え…?」
目の下あたりに細い指が触れて
「ここのシワ」と微笑む。
触られたところも向けられた笑顔も
一気に熱が帯びてく。
耐えれず目を逸らしたけど、
やっぱり嘘がつけなくて再び見てしまう。
「そんな瞳で見ないで…?揺らいじゃうよ?」
なんてね…と笑う。
俺が何か言える立場じゃないことは分かってる。
でも、苦しい………
「俺の方が揺れまくりだよ……情けない。頭では分かってるのに…こうしてまた話したり、笑いかけられたりすることがこんなに嬉しいとは思わなくて……ごめん、俺はズルいよな」
何言ってるんだ………
何で俺は……泣いてるんだよ……
ポタポタと止まらない。
格好悪い……
「何の涙…?」
真っすぐ見つめながら聞かれても上手く答えられないよ。
こんな気持ち……言ったらおしまいだから。
お互いに苦しくなるだけだから。