想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
そのままその手は腕をすべり、わたしの手のひらをつつんだ。

そしてエレベーターに背を向けて、外へと向かう。

———このひとは、誰? いったいどこへ…

判断力は麻痺したまま、手を引かれて足は素直に歩いていた。
どうしてだろう。つながれた彼の手が、とても温かかったからなのか。

ようやく意識が状況に追いついてきたのは、会社を出て拾ったタクシーに二人で乗りこみ、そのひとが「代官山」と告げ、しばらく走った頃だった。

涙はとうに止まっていたけれど、思い出したように指で目元をぬぐった。

隣に座るひとに、ちらりと視線を向ける。
窓の外を流れる夜の街の灯りが車内にさしこみ、彼の横顔を浮かび上がらせる。
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