想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
すこし笑って彼が首を横にふる。
「イタリア留学時代に世話になった教授が、むかし日本に滞在したことがあるひとだったんだ。それで東京でほんとうに美味しいと思ったイタリアンを教えてもらった。そのうちのひとつが、ここ」

「そうなんですね」
本場のひとも認める味ということだ。

マダムのおすすめをもとに、魚のコースを注文した。細かな泡がうつくしいスプマンテで乾杯する。

「外食のときは、つい行き慣れた店を選んでしまうんだ」

「どうしてですか」

「初めて行く店で空間デザインが優れていると、気が散ってしまって。照明はあのデザイナーの作品だな、とか奥行きや天井高が気になって測りたくなってくる。ちょっと恥ずかしいけど、コンベックスは常に持ち歩いている」

コンベックスというのは金属製のメジャーのことだ。空間デザイン、建築の現場では、まずあらゆるもののサイズをこれで測るのが基本だ。

「一種の職業病ですね」

「常にデザインのことが頭を離れないんだ」
< 48 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop