想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
やがて食事を終えて、店の外に出た。時刻は10時を回った頃だろう。
ゆっくりふたりで階段を上ってゆく。途中の踊り場は、店からも道路からも死角になっている。と、やさしく二の腕をつかまれた。あの、エレベーターのときと同じように。

あのときと違ったのは、そのまま手は背に回り、抱き寄せられた。
まったく予想してなかったわけじゃない。わたしだって子どもじゃないんだから、なんてそれこそ子どもっぽい強がりだ。強がりながら、素直に彼に身をまかせる。

片方の腕でわたしを抱き寄せながら、もう片方の手があごにかかり上を向かされる。
暗がりでくちびるが重なった。

そう長い時間ではなかった。くちびるを重ねただけの、なにかを確認するようなキスだった。

手を繋いで階段を上がって歩きながら、自分に言い聞かせるように彼がつぶやく。
「このまま連れ去ってしまいたいけど、今日は自重しないとな」
< 51 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop