想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
「佐倉圭介への好奇心でしょうね、いうなれば」
静かに彼が答える。

「好奇心…」

「栗原さん、僕いままで人生で苦労ってしたことないんです。勉強もスポーツも人付き合いも、そう努力しなくても並以上にこなせて、思い通りになってきたから。恋愛も簡単だった。息をするように自然に女性が言ってほしいことや、やってほしいこと、喜びそうなお店やスポットが分かるし、望むようにふるまうことができたもので」

彼ならそうだろう。

「人や世の中を動かしてみたい、なんて思って広告代理店に就職して。仕事も順調で面白かったけど。器用貧乏っていうのかな、すいすい世渡りしながらいつもどこかで退屈していた」

こちらに向けられる彼の視線が、鋭さを増してゆく。

「そうして佐倉圭介に出会った。本物の才能の前では、俺の器用さなんて吹けば飛ぶようなもので」
自嘲するような笑みを口の端にきざむ。
「彼に圧倒されて、押しかけるように転職して。生まれて初めて仕事に悪戦苦闘する日々で、それを面白いと思いながら、同時にコンプレックスを抱いているってわけです」

他人事のように語るところに、彼の屈折した感情があらわれているように思えた。
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