想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
逡巡したあげく、ポストイットの余白に『行きましょう』とだけ書いて直斗さんのデスクに戻した。

直斗さんと二人でオフィスの廊下を歩くだけで、エレベーターを待っているだけで、かすかに緊張してしまう。誰か乗っていることを期待したけど、やってきたエレベーターは無人だった。
直斗さんが一階のボタンを押して、ふたりを乗せた匣が下降を始める。

栗原さん、とエレベーターボタンに視線をむけたまま直斗さんが言う。
「僕はあなたと近い場所にいられる」

「直斗さん…」

距離感を保っていながら、こちらの心の中に踏み込んでくる。情けないことに、彼の言葉に動揺している自分がいる。
ななめ後ろから見上げる直斗さんのあごのラインは、まだあいまいなやわらかさを残していて。そんなところに、彼の26歳という年齢と佐倉さんとの違いを知る。

———あなたと近い場所にいられる。
佐倉さんとわたしは遠いと、彼は告げている。

そうしてわたしはその言葉に、なにも返すことができなかった。
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