想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
第5章/紅碧 —beni midori—


佐倉さんはわたしの上司で、彼との恋愛はどうしても仕事と切り離せない。同じチームで働いているのだから。

「厳しいな」

佐倉さんのそのひと言に、チームの空気が重くなる。
エル・コニール社から「不採用」のメールがあったという。実際には「もっといいアイディアはないのかい?」という言い回しだったそうだけど。

佐倉さんが提案したのは、ループチェアと名付けた椅子だった。らせん状の脚が目を引くスタイリッシュな作品だ。アイディアの斬新さと洗練されたデザインは評価されたものの、購買層がかぎられるというのが先方の結論だったようだ。

「素晴らしいデザインだと思うんですけど、どこがダメなんでしょう…」
そんなことを佐倉さん本人に言えるわけもなく、つい隣にいる直斗さんにもらしてしまうのだ。

「ループチェアの試作品に座ったんですけど、ちょっと不安定感があったんですよね」

「不安定感…」

「それが面白みでもあると思います。たとえばアンティークの三本脚の椅子とか、非常に人気がありますから。そうはいっても飛びつくのは趣味人、愛好家が多いでしょう。先方の要望に、あと一歩及ばなかったということじゃないかと」
直斗さんの表情も険しい。
< 82 / 149 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop