想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
「いい匂いだな、お腹が減った」と廊下の奥に目をむけて、彼がつぶやく。

「ちょうどできたところです」

足取りかるく、ふたりでダイニングにむかう。

「サン・テミリオンのシャトー・ダルシー 。美織の料理に絶対合うはず」
ワインセラーからボトルを出す佐倉さんの声がはずんでいる。

「サンテ…いいものなんですか? 詳しくなくて」

「サン・テミリオンが産地で、シャトー・ダルシー が銘柄。うんちくは覚えなくていいから味を楽しんでほしい。当たり年の十年ものなんだ」

よかったと、内心胸をなでおろす。無理してる様子はない。

ワインと料理を囲んで楽しい食卓になった。
佐倉さんおすすめのワインをひとくち含んで、香りの深さと味わいの豊かさにうっとりする。

「うん、うまい」と佐倉さんがアヒージョをほおばって目を細める。

「レストランの味は難しいですけど。アヒージョも専用の鍋がないから、フライパンで作ったので」

「それくらいでいいよ。うん、塩加減がやさしい。今度は和食も食べたいな」

今度っていう言葉も料理を喜んでくれていることも、すべてが嬉しい。
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