想われて・・・オフィスで始まるSecret Lovestory
助言を求めるというより、わたしのひととなりを知ろうとするような、そんな投げかけだった。

「そう、ですね。迷ったとき、わたしはよく祖父の言葉を思い出すんです」

「美織の、おじいさん?」

はい、とうなずく。「わたし静岡出身なんですけど、静岡って富士山をはじめとして名山がたくさんあるんです。そんな土地柄なので登山が身近で、祖父も山登りが好きなひとでした」

山を愛して、自然を愛して、生まれ育った静岡という地を愛して、山から採れる木材を使った木工所を営んでいた祖父だった。
「祖父はときどき山の話を聞かせてくれたんですけど、よく覚えているのが、山で道に迷ったら登れっていう教えなんです」

「迷ったら登れ?」

「はい。というのも、山は下るほど裾野が広くなるので余計に道は見つからなくなるし、滑落する危険が高くなるから。逆に登ってゆけば道に行き当たる確率は上がるし、極端なはなし頂上までたどり着けば必ず道が見つかります」

「なるほど」
佐倉さんがつぶやく。
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