切愛願望~極上御曹司の庇護欲からは逃げられない~
あっ、バッグから出ちゃったのね。大事なものなのに、何してるんだろう、私。
「あっ、はい。すみません。ありがとうございます」
礼を言いながら立ち上がって、キーケースを受け取る。
拾ってくれたのは、二十五くらいの背の高い黒髪の男性。
「常務、どうかされましたか?」
三十代くらいの男性がやって来て、黒髪の男性に声をかける。
え? 常務?
私が驚いていると、黒髪の男性は「いや」と後から来た男性に言って、私に視線を戻した。
「君は……」
常務にまじまじと顔を見られて緊張する。
「会社で走らないように」
少し厳しい顔で注意すると、常務は後から来た男性と一緒にエレベーターに乗った。
なにか言いかけた気がしたんだけど、気のせいかな?
ポカンとしてその様子を見ていたら、聞き覚えのある声がした。
「お前、朝から常務に注意されるなんて恥ずかしいぞ」
それは同期の渡辺君の声。
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