切愛願望～極上御曹司の庇護欲からは逃げられない～

「松本、寮引き払って……どこかいいアパート見つかったのか？」
向かい側の席の渡辺君が聞いてくるが、返答に困った。
個人的な事情を説明したくない。
「えーと、親戚の人のところに住まわせてもらうことになったの」
無難な言葉を返したが、彼の質問はまだ続いた。
「へえ、場所は近いのか？」
「うん。銀座だから」と何も考えずに答えて、マズイと思った。
普通、銀座に住んでいる人なんてあまり聞かない。
「銀座？　その親戚、すごい金持ちだな」
渡辺君は私の返答に少しビックリしたようだが、鋭いツッコミはなかった。
「私は貧乏だけど、親戚はね」
ハハッと曖昧に返してこの話題を終わらせると、部長がやって来て朝の朝礼が始まった。
午前中はリクルーター用の資料を指導員さんと準備。
うちの社名が入った封筒にカタログと参考資料を入れていく。地味な作業だが、こういう内職的な仕事は好きだ。