切愛願望~極上御曹司の庇護欲からは逃げられない~
いや、俺自身……人を愛することはないかもしれない。
鍵を見つけて、ズボンのポケットに入れると玄関のインターフォンが鳴った。
多分、水嶋が迎えにきたのだろう。
玄関へ行き、黒の革靴を履くと、ドアを開けた。
「おはようございます。ちゃんと準備されているとは珍しいですね。いつも面倒だから欠席するとか言ってゴネるのに」
水嶋は俺がスーツを着ているのを見て意外な顔をする。
彼が迎えに来ると大抵パジャマ姿か部屋着で出迎える。
役員会議に行きたくないというアピールなのだが、こいつは冷ややかに言うのだ。
『その格好で構いませんので、ご出席ください。亡き会長の遺言は守って頂きますよ』
亡き会長というのは祖父さんのこと。
俺が真田物産を継ぐ気がないのは知っていたはずなのだが、余命を宣告されてからは父の経営に不安を覚えたのか、俺を専務に据えて『玲司が真田物産を支えろ』と言って逝ってしまった。
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