切愛願望～極上御曹司の庇護欲からは逃げられない～

常務である弟の隣の席に座り、テーブルに置かれていた資料を手に取った。
今うちの会社は高速鉄道事業の参入に力を入れていて、北米受注を目指している。
うちのライバルは中国の会社なのだが、今アメリカと中国の関係は冷え切っていて、舵取りを間違わなければ、うちが受注することができるだろう。そうなれば、オーストラリアやヨーロッパへの事業拡大につながる。
会議が始まり、各担当者の説明に耳を傾けていたが、年間数千億円もの赤字を出している事業については誰も触れない。
会議が終了する前に椅子にふんぞり返りながら社長である親父を見据えた。
「ドイツの原発事業についてはどうなった？ここで議論すべきじゃないのか？」
俺が憎まれ役になっても、この件を真剣に話し合うべきだ。
放置すれば、真田物産の存続にも関わってくるだろう。
「その件については、ドイツ政府とまだ交渉中だ」